この記事では、株式会社アド・ダイセンが生成AIを活用して、非技術者が主導する業務効率化を実現した事例を紹介します。 エンジニアがいなくても、現場の人間が自らツールを作れる時代が来ています。
非技術者が2時間でツールを開発。何が起きた?
株式会社アド・ダイセンは、ダイレクトメール(DM)の企画・制作から配送までを手がける企業です。 同社が直面していた課題は、「現場レベルのDXは現場の人間にしかできない」という現実でした。
顧客ごとに異なる帳票形式や運用プロセスが無数に存在する中で、グループ会社にエンジニアはいるものの、すべての案件に対応するのは不可能。 基幹システムを刷新しても、手元の業務プロセスまで効率化できない状況が続いていました。
そんな中、生成AIを活用した取り組みが大きな転機をもたらします。
AWSの生成AIツール「GenU(Generative AI Usecases)」と、統合開発環境「Kiro」を使って、非技術者が自ら業務ツールを開発。 驚くべき成果を上げました。
成果の具体例
スケジュール管理ツールの開発
- 開発者:学生時代にPythonに触れた経験があるメンバー
- 開発時間:数時間
- 効果:2から3時間かかっていた作業が数分で完了
- 機能:出荷日から逆算して5から10本のプロジェクトのスケジュールを自動生成、Excelへの自動転記、Outlookカレンダーへの自動登録
配送シミュレーションツールの開発
- 開発ツール:Kiro(Agentic AI搭載の統合開発環境)
- 開発時間:わずか2時間
- 効果:まる2日かかっていた作業が約30秒に短縮
- 機能:約10社の宅配会社マスターから選択、複数ファイルの一括照合、結果の可視化
これまで丸2日かかっていた作業が、たった30秒で終わる。 これは単なる効率化ではなく、働き方そのものの変革です。
重要なのは、これらのツールを開発したのが「エンジニアではない現場の人間」だということです。
生成AIツール「GenU」と「Kiro」とは?
今回の事例で活用されたツールについて、簡単に説明します。
GenU(Generative AI Usecases)
AWSが提供する生成AI活用のためのツールです。 Amazon Bedrockという生成AIサービスを使いやすくしたもので、以下の特徴があります。
- チャット機能でAIと対話しながら開発
- 議事録作成、画像判定、データ分析など多様なユースケースに対応
- ビルダーモードで独自のユースケースを作成可能
- 従量課金制で、使った分だけ支払い
Kiro
統合開発環境(IDE)として機能する、Agentic AI搭載のツールです。
- AIと対話しながらコードを修正・デバッグ・実行
- 「このデータをこう処理したい」という業務要件を伝えるだけでコード生成
- 非技術者でも高度なツールを作れる環境
どちらも共通しているのは、「プログラミングの専門知識がなくても、AIと対話しながらツールを作れる」という点です。
なぜアド・ダイセンは生成AIに踏み込んだのか
公式には「取り残されないためにAIを使わなければという危機感」が理由とされています。 しかし、背景にはもっと深い事情があるように感じます。
成熟業界における生産性向上の限界
DM業界は、すでに成熟しています。 新しい市場が急拡大するわけではなく、限られたパイの中で競争が続く。
そんな中で生き残るには、生産性向上が必須です。 しかし、従来型のシステム刷新だけでは限界がありました。
なぜなら、現場レベルの細かい業務は「個別最適化」されており、標準化が難しいからです。 顧客ごとに異なる帳票、運用プロセス、データ形式。 これらに対応するには、現場の人間が自ら改善するしかありません。
エンジニアリソースの制約
グループ会社にエンジニアはいるものの、無数にある案件すべてに対応するのは不可能。 優先順位をつければ、手つかずの業務が山積みになります。
だからこそ、「現場の人間が自らツールを作れる環境」が必要だったのでしょう。
RPA導入の経験が活きた
アド・ダイセンは3から4年前からRPAを導入し、業務改善に取り組んできました。 「現場主導で改善する文化」がすでに根付いていたことが、生成AI導入の土台になったと推測されます。
RPAで培った「業務を自動化する思考」が、生成AIという新しい武器と結びついた。 それが今回の成功につながったのではないでしょうか。
生成AIによる現場主導DX、どう活用できる?
では、この事例から学べることは何でしょうか。 具体的な活用シーンを考えてみました。
すぐに試せる使い方
議事録の自動作成 会議内容を録音し、AIに要約させる。 議事録作成にかかる時間を大幅に削減できます。
営業データの分析 売上データをExcelからアップロードし、AIに分析させる。 「先月と比べてどの商品が伸びているか」といった質問に、AIが即答します。
定型業務の自動化 毎月同じフォーマットで作る報告書や、繰り返し行う集計作業。 これらをAIに覚えさせて、自動化できます。
今後期待できる使い方
カスタマーサポートの効率化 顧客からの問い合わせ内容をAIに分析させ、適切な回答案を自動生成。 対応時間を短縮し、顧客満足度も向上します。
在庫管理の最適化 過去の販売データから需要を予測し、適切な在庫量を提案。 過剰在庫や欠品を防げます。
人事評価の補助 従業員の業績データや目標達成状況をAIに分析させ、評価の参考にする。 公平性と透明性が高まります。
重要なのは、「現場の人間が自分で課題を見つけ、自分でツールを作れる」環境が整ったということです。
期待と懸念、両方あります
ここからは、完全に個人的な所感です。
期待している点
現場主導のDXが現実になった
これまで、DX(デジタルトランスフォーメーション)は「上から降りてくるもの」でした。 経営層が決めて、IT部門が実装して、現場が使う。
しかし、生成AIの登場で、この構図が変わりつつあります。 現場の人間が自ら課題を見つけ、自らツールを作り、自ら改善する。 これこそが真のDXだと思います。
非技術者でもツールを作れる時代
プログラミングの専門知識がなくても、AIと対話しながらツールを作れる。 これは、働き方の民主化です。
「エンジニアに頼まなければ何もできない」という時代は終わりつつあります。 個人的には、この変化にワクワクしています。
懸念している点
属人化のリスク
現場主導でツールを作れるのは素晴らしいことですが、属人化のリスクもあります。
「このツールは〇〇さんが作ったから、〇〇さんしかメンテナンスできない」 こうなると、組織としての継続性が失われます。
記事中でも「しかるべき担当者がツールを開発、検証し、経験者がチェックしてルールを作る体制を整える」と述べられていますが、この体制構築が鍵になるでしょう。
AIへの過度な依存
AIが作ったコードが正しいとは限りません。 バグがあったり、セキュリティ上の問題があったりする可能性もあります。
「AIが作ったから大丈夫」と盲信せず、検証する姿勢が必要です。
コストの問題
従量課金制は「まず触ってみる」にはマッチしていますが、使用量が増えればコストも増えます。
全社展開したときに、どれくらいのコストがかかるのか。 費用対効果を見極める必要があります。
個人的には、期待の方が圧倒的に大きいです。 ただ、「ツールを作っただけで満足」にならないよう、運用体制の整備が重要だと感じます。
まとめ:生成AIが開く、現場主導DXの新時代
株式会社アド・ダイセンの事例は、生成AIが「現場主導のDX」を現実にすることを証明しました。
非技術者が2時間でツールを開発し、丸2日かかっていた作業を30秒に短縮する。 これは単なる効率化ではなく、働き方そのものの変革です。
重要なのは、「エンジニアがいなくても、現場の人間が自ら改善できる」環境が整いつつあるということです。
今回紹介したGenUやKiroは、まだ一部の企業でしか使われていません。 しかし、こうしたツールが普及すれば、あらゆる業界で「現場主導のDX」が加速するでしょう。
生成AIは、もはや「試してみるもの」ではなく、「使いこなすもの」になりつつあります。 まずは小さく始めて、成功体験を積み重ねること。 それが、次の時代を生き抜く鍵になると、私は思います。


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